腎機能障害 / 腎不全 その予防と治療

 

1 定義 

  腎臓では、毛細血管が集まった糸球体(しきゅうたい)と呼ばれる所で、(簡単にいうと、)血液をろ過しています。 ここでは腎臓が正常な場合、赤血球などの細胞や、たんぱく質のような大きな物質は、ろ過されません。  ですから、ここの障害で、血尿(尿に血がまじる)や蛋白尿が出ます。

 CKD(慢性腎臓病)という言葉が、近年重要視され使用されています。

 CKDの定義は、 @ 腎障害(主に蛋白尿)が存在する。 A GFR(血液を1分間にろ過する力)が60ml/min 以下。 このどちらか、または両者が、持続して存在するときCKDといわれます。

 

2 意味、重要性

  国民の健康を脅かす大きな問題である。

 GFR50ml/min以下の人口と透析をすでに行っている人口を足すと450万人にもなります。 これらの人は、腎不全の危険が高いだけでなく、将来、心筋梗塞や脳梗塞にかかりやすいことがわかっています。

 

3 原因

  遺伝 と生活習慣

 日本人は、ろ過する能力(GFR)が白人に比べて、全体的に低いようです。 また、腎臓病が多い家系があることから遺伝子の関与が考えられています。

 生活習慣は、もっと大きな要因です。 運動不足と脂肪の過剰摂取によって生じた肥満、肥満から生じる高血圧、高脂血症、そして糖尿病は、CKD,腎不全をもたらす大きな要因です。 また、喫煙も腎障害、CKDを進める大きな因子です。 

 

4 対策

  

検診

 まず、健康診断を受けましょう。 そして、血圧、血糖、コレステロール、中性脂肪に異常がないか調べてください。 検診では、以下の点に注意してください。

肥満

 (内臓)肥満は、CKD メタボリックシンドローム、糖尿病のすべてに通じる疾患の元凶です。 

  肥満の増加は、近年著しいものがあります。 下のグラフは、九州久山町の研究から日本で肥満が増えてきたことが示されています。 

左側が肥満の増加を表し、右側は耐糖能障害(糖尿病のいわゆる前段階)の増加をあらわしています。

 次に、ここでの腎機能障害の人の頻度(下のグラフ左側)を見てみると、この30年あまりで急激に腎機能障害の人が増えていることがわかります。 この間、この集団での血圧は低下(下のグラフ右側)していることから、いかに肥満の影響が大きいかわかります。

腹囲が男性85cm 女性90cm以上といわれておりますが、今後変更されることが予想されます。 しかし、腹囲が多少基準値より少なくても、(男性、女性80cm以上ある人は)合併しやすい高血圧、高脂血症、糖尿病の有無に注意が必要です。 

 注意すべき指標として以下をあげます。

@      脂肪肝 :肝臓に脂肪が蓄積して、糖尿病を起こしやすくしている。

A      中性脂肪 150mg/dl 以上

B      朝の血圧135/85mmHg 以上

C      いびきをかく。 寝ているときに呼吸が止まる。 昼間、やたらと眠い。(睡眠時無呼吸の疑い)

D      喫煙者

E      上記に異常がなくても、PWV 14001600cm/s以上 尿中アルブミン 30mg/gCr以上のとき

クレアチニンの重要性

クレアチニン(血液検査で簡単にわかります。 一般的な検診項目に含まれています)を測定し、推算GFRをだしてもらいましょう。 これも簡単に出せます。 特に異常がない人でも、年に1回検査して、この値が年1ml/min以上低下していたら一度専門医にかかりましょう。

検尿

検尿で尿潜血や蛋白尿がないことを確認するのも重要です。

 尿中アルブミン(将来の危険を予知する優れたマーカー)

《後日詳細をUP予定》

尿の検査で簡単に出せるのですが、検診で取り扱っているところは少ないと思います。 当院では、健康診断(1550円)として希望者に行っております。 この値が30mg/gCr以上のとき将来腎障害が進みやすいことがわかっております。 近年、この閾値がさらに低くなり10mg/gCrというごくわずかな量でさえ、将来の危険を示しているという報告が国内外から多数あります。 

 

5 慢性腎不全 透析とは。

 腎機能が高度に障害され、腎臓の機能低下により生じた症状(下記)が、透析を行わなければ代償できない状態です。 腎不全の症状は様々です。

水分貯留にともなう症状 塩分や水分の排泄ができないため体内に水分、塩分が貯留します。 腎臓で排出できる量が低下し、食事制限しても、塩分や水分を排出できない状態。 高血圧になり、下肢がむくみ、肺のなかにも水分がたまり、労作時の息切れがでて、遂には心不全の状態になります。 

尿毒症 体内の老廃物を尿から出すことができなくなり、食欲低下、いらいら、集中力の低下 倦怠感 疲れやすさ 次第に記憶力の低下や、行動異常が現れ 最終的に昏睡の状態となります。 免疫力の低下から、重篤な感染症や結核の発症も高頻度に見られます。 出血しやすいため、皮下出血や、胃潰瘍などの消化管出血もみられます。 アンモニアの産生亢進から、尿臭がするのも特徴的です。 

貧血  腎臓でエリスロポエチンという造血作用のある物質が作られます。腎機能の低下とともに、この物質も低下し貧血が生じます。 貧血は、腎機能をさらに低下させ、心臓にも悪影響をもたらします。

カルシウム、リン   腎臓にはビタミンDを活性化させる作用があります。 腎機能の低下で、ビタミンDの作用が低下し、その結果カルシウムが減ります。 すると副甲状腺ホルモンが増加し、骨を分解しカルシウムが血中に送りこまれます。 このため骨がもろくなります。  一方、腎不全では、リンの排泄が低下し、血中でりん酸カルシウムの結晶を作り、石灰化を作ります。 これは、血管の動脈硬化につながります。

動脈硬化  透析患者様の血管は、石灰化が生じるため硬い血管になります。 これらは、動脈硬化を測定する検査で、その値が上昇していることが報告されています。

 

心不全、心筋梗塞や脳卒中が多いことから、動脈硬化に対する予防が極めて重要です。 早期発見のための診療戦略が必要です。

 

6 治療 

 治療は、CKDのステージ(進行度)にもよりますが、上の図で示されるように多岐にわたります。

GFR30ml/min程度の進行した腎不全において、腎機能の保持のためだけでなく、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)の予防も極めて重要です。 このため、動脈硬化がより進行している危険が高い透析患者様では、より一層下記の注意を守ることが重要です。

血圧 《後日詳細をUP予定》

 

脂質代謝 《後日詳細をUP予定》

血糖 《後日詳細をUP予定》

貧血 貧血が悪くなると腎臓や心臓が悪くなる

貧血は、腎不全になるリスクであるだけでなく、心不全などの心臓への悪影響が見られます。 早期に治療を開始することは、腎機能の保持に有効なだけでなく、将来の心血管イベントのリスクを減らすのに有効と考えられます。 (下のグラフ参照)

動脈硬化 (冠動脈疾患 閉塞性動脈硬化症 脳卒中)

カルシウム リン 副甲状腺機能

栄養 炎症

上記の管理を厳格におこない、腎機能の保持に努めます。 

 

7 具体的な管理項目

食事、運動療法の確認 塩分やたんぱく質摂取量は、1日の尿をためて1日の塩分摂取量、蛋白摂取量を年に何回か測定し、治療に反映させます。たんぱく尿の程度を調べることも同時にでき、大変労力のかかる検査ではありますが有用な検査です。 最近では、1回の検尿でも塩分摂取量を(大雑把でありますが)推定する方法もあり、塩分制限に役だっております。 

家庭血圧の測定 起床後と睡眠前の血圧、時には24時間血圧の測定が厳格な血圧管理に重要です。

血液検査 クレアチン、カルシウム、リン、ヘモグロビン(貧血の指標)を測定します。 

カルシウム リンは、動脈石灰化に関係し、その後の動脈硬化性疾患の発生と大きな関係があります。 貧血は、腎障害の進展を早めるだけでなく、透析導入後の動脈硬化性疾患の発生と大きな関係があります。

動脈硬化検査  最近では、脈波伝播速度(PWV) 頸動脈エコー AI  などが普及しています。 

動脈硬化性疾患の探索  閉塞性動脈硬化症糖尿病性網膜症のある場合には、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞の原因となる病態)が高率に合併していることが報告されています。 リスクの高い人をスクリーニングして、心筋梗塞を未然に防ぐことが期待されています。

 

組織図